ZL-P DISCOVERY

隠されているもので、あらわにならないものはない

【現れた未来人(1)】邂逅する世界線たち(ジョン・タイター)

インターネットが普及して以来たくさんの自称未来人たちがネット上に現れてきました。その中で最も有名なのがこれからご紹介するジョンタイターです。

 私が初めてジョンタイターの名前を聞いたのは2011年に放映されたシュタインズゲートというアニメでした(原作は2009年に発売されたゲームソフト)。物語の中でジョンタイターという人物が登場するのですが、この人物のことが気になったので調べてみたところ元ネタが存在することを知りました。その内容が意外と面白かったのでいつか考察したいと思っていたのです。

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アニメ「シュタインズゲート

 今回ジョンタイターを考察するに当たって参考にしたのは彼が掲示板に書いた文章をまとめた本「JOHN TITOR A TIME TRAVELER'S TALE」を日本語訳した書籍「未来人ジョン・タイターの大予言」です。この書籍はジョンタイターの家族が過去に「ケリをつける」ために弁護士を介して出版したものであり、ジョンタイターが掲示板に書き込んだ内容とそれに対する彼の母親のコメントが書かれています。そういえばジョンタイターが「日本は新大和皇国・蝦夷共和国・政府管理区域に分かれる」と予言したとして、ある時期ネット上で騒がれていたことがありましたが、この書籍からはその予言を確認することはできませんでした。

 今回はジョンタイターが本物のタイムトラベラーかどうかについては考察しません。その真偽を確認することはもはや不可能だし、たとえ偽物であったとしても後世にこれだけ影響を与えたということは、それだけの何かが彼の書き込みにはあったということなので、今はとりあえず彼が本物のタイムトラベラーであるという前提で考察を進めようと思います。例え進む方向が間違っていたとしても、その結果得られたものは私たちをどこかへ導いてくれるでしょう。

 本記事ではジョンタイターの発言を赤文字で記載し、私がそれに対してコメントしたり、私自身の考え方を述べる形で進めていこうと思います。

 

ジョンタイターは2000年にネット上のとある掲示板に現れ、自分は2036年から来たタイムトラベラーであると自称します。ジョンタイターの主張によれば、彼は2038年問題を解決するために必要なコンピューター「IBM5100」を入手する為に1975年へタイムトラベルしたそうです。そしてIBM5100を入手した後に将来アメリカで起きる内戦を警告するために2000年へタイムトラベルしました(彼の母親によれば2000年問題の備えをさせるために1998年に自分たちを訪ねてきたとしています)。彼は数カ月の間に当時の人々と掲示板で対話し、いくつかの予言を残しました。そして彼の母親の主張によれば20013月に元いた世界へと帰っていったようです。

 ジョンタイターは軍に所属しており、このミッションは軍が行っていると主張しました。彼がIBM5100入手のミッションに選ばれた理由は彼の祖父がIBM5100の開発に関わっていたからだそうです。彼は1975年での出来事を以下のように振り返っています。

 

ジョンタイター: 

1975年に私が祖父に話しかけたとき、私が名乗った通りの人間だと信じてもらうのにかなり時間がかかりました。あなたたちの一部の人もそうでしたが、祖父は、とても忘れられないようなことを言いました。祖父は(タイムトラベルの)装置を見てから私のほうを振り返り、「お前は精神病院から逃げ出してきたか、タイムトラベラーかのどちらかだな」と言いました。何週間かして、そのどちらも祖父には恐ろしく、危険なものなのだということがわかってきました。でも、どちらのほうがより恐ろしかったのかは私にはわかりません。

 

 ジョンタイターはタイムトラベルの原理を世界線という概念を使って説明しています。この世界にはたくさんの平行世界(世界線)が存在し、タイムマシンは「自分たちの世界線と似た世界線の過去」へ行くことにより実質的に過去へ行くことができるというわけです。タイムパラドックスの問題もこの世界線の概念によって解決できます。タイムトラベルして自分の父を殺したとしても、それはあくまで別の世界線の父なので、自分が消えることはありません。彼の未来についての予言の多くは外れているのですが、それはこの世界線の違いによって説明できることを彼は認めています。ここから彼の世界線についての説明を見ていきましょう。

 

ジョンタイター: 

この世界線と私の世界線との時間的な誤差は1~2%だと思います。もちろん、私がここに長く留まれば留まるほど、私から見てそのズレは大きくなります。

 

私が元いたのとまったく同じ世界線に戻ることは不可能ですが、それは何をもって「正確な」世界線と呼ぶかにかかっています。私も、その世界線上にいる他の誰もが違いに気づかないほど、きわめて近い世界線に戻ることはできるのです。古典的な例で説明するなら、つねにゴールまでの距離の半分づつ進んでいくようなものですね。ゴールに限りなく近づくことはできても、到達はできないのです。隣接する宇宙の位置関係は、ペンローズ・ダイアグラムを使って説明することもできるのですが、私にはそこまでの数学の知識はありません。

 

 元いたのとまったく同じ世界線に戻ることができないのであれば、元の世界線IBM5100を持って帰ることができないことになりますが、その点についてジョンタイターはあまり気にしていないようです。「似てればそれでいい」と割り切れないとタイムトラベラーにはなれないようです。ジョンタイターは過去改変についても以下のような興味深いことを言っています。

 

ジョンタイター:

あなたたちの世界では、ウェーコ事件、ルビー・リッジ事件、エリアン君事件などのニュースが記録に残されていると思います。私が皆さんに、近々起こる飛行機事故やその他の災害について教えたとすれば(私がその正確な日時を知っているとして)、ある時点では何人かの命を救うことができるかもしれません。しかし、それによって連鎖反応的に変化が起こり、その後の別の時点で他の人の命を奪うことになるでしょう。

 

 別の世界線の過去を改変したとき、連鎖反応的な変化により清算が発生するようですが、どうしてそんなことが起きるのかについては語られていません。飛んでくるボールを避けたら他の人にボールが当たることと同様に、事故や災害による人々の「死そのもの」を無くすことはできないということでしょうか(先に紹介したアニメ「シュタインズゲート」でもある人物の命を助けると他の人物が死んでしまうという現象を取り入れています)。それはゲームにおける分岐を見ているようであり、人為的な感じがします。もしこの現象が実際に存在するとしたら、この世界にはシナリオ通りに時間を進めようとする力(とそれに抵抗する力)があり、T-RPGのような構造を持っていると言えるかもしれません。

 

 世界線(平行世界)の分岐というアイデアは色々な映画・アニメ・ゲームなどに採用されています。私が知る限り最初にこのアイデアを取り入れた物語は1999年に発表された「タイムライン」(マイケル・クライトン著)です。この本にもタイムトラベルが登場するのですが、その原理の中に多宇宙論という考え方が登場します。多宇宙論は元々は量子力学の解釈の一つである多世界解釈から出てきた考え方であり、多世界解釈とは予測できない観測対象の挙動を説明するために考案されたものです。例えば量子力学で有名な2重スリット実験における電子1個の動きは完全にランダムですが、最終的な電子の分布は2つのスリットから波動を放出させて出来る縞模様と同じになります(ただし放出する電子を観測しなかった場合に限る)。粒子であるはずの電子が波動のように振る舞うこの現象をどう説明するかについてたくさんの科学者たちは悩みました。その中には、観測されていない電子たちは他の世界の電子たちと干渉するので、結果として波動のように振る舞っているように見えると考える科学者たちもいたのです。

 

 多世界解釈というアイデア自体は量子力学以前の昔から哲学の分野で論じられてきました。ドイツの哲学者ライプニッツは可能世界という考え方を考案し、現実化したがっている無限の可能世界たちの中から最善の世界が現実の世界になるとしました。イメージとしては以下のような感じでしょうか。

 

可能世界A:俺が現実化するんだ

可能世界B:いや俺が現実化するんだ

可能世界C:いや俺が

可能世界D:俺が

以下無限に続く

 

 この理論についてはいつか掘り下げたいと思っていますが、今はジョンタイターの理論に関係する部分を考察していきたいと思います。ジョンタイターは実現可能な世界について以下のように述べています。

 

ジョンタイター:

起こりうる、あるいは起こるであろうことはすべて、既にどこかで起こったことである

 

 この発言はまさに可能世界のことを言っているように読めますが、「起きた」という表現には注意する必要があると思います。私がこのブログを書いていない世界線は、存在することは可能であるものの、私にとっては起きなかった世界線であり、「起きた」とは言えないからです。したがって主観的に起きることと客観的に起きることとは区別する必要があるように思われます。可能世界を本に例えてみましょう。図書館にたくさんの本があり、この図書館には私が読んだことがある本と読んだことがない本があるとします。主観的に起きた可能世界とは、この図書館で私に読まれたことがある本であり、客観的に起きた可能世界とは、この図書館にある全ての本であると言えます。ジョンタイターのタイムマシンは、今私たちが読んでいる本(現実世界)から、別の似ているが微妙に内容が違う本(可能世界)へ視点を切り替えさせる技術を利用していると言えるでしょう。

 

 今回の記事では、私の知識が不足している為、ジョンタイターが説明しているタイムマシンの技術的な内容にまでは踏み込みません。一応簡単にだけ触れておくと、重力やブラックホールが鍵を握っているようですが、恐らくそれらは私たちが理解している重力やブラックホールではないと思われます。ジョンタイターは彼の書き込みの中で、タイムトラベルをするためには「特定の入り口」が開くのを待つ必要があるとしており、2001年には2回あったようです。タイミングが限られているということは、何か周期的な運動にタイムトラベルが依存しているということであり、これは私の予想ですが、それは天体の動きではないかと感じます。

 ジョンタイターの主張によると、タイムトラベルの基礎研究は2001年からCERN(欧州原子核研究機構)により始められ、2034年に初のタイムマシン完成により終結するとしています。CERNは現在(2022年)もLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を利用して実験を行っていますが、一部の人たちは2001年から始めた実験によってマンデラ効果(不特定多数の人たちが事実と異なる記憶を持っている現象)を招いたのではないかと疑っています。マンデラ効果を異なる世界線たちが邂逅して混ざり合った結果だとすると、LHCはこの世界を実験台にしてタイムマシン理論を構築しようとしていることになります。実験である以上この先何が起きるか分からないので、LHC稼働に反対する人たちがいることは当然でしょう。技術開発は初期の段階では事故などを起こして犠牲者を出すものであり、先述したシュタインズゲートやタイムラインでは他の世界線への転送実験で失敗した人たちの凄惨な様子が描かれています。

 

 飛行機の開発によって他国へ気軽に旅行に行けるようになったのと同じように、タイムマシンが完成し一般的に利用できるようになれば、他の世界線へ旅行することもできるようになるのかもしれません。アニメ「ぼくらの」で描かれたような世界線同士の戦争は起きてほしくないものですが・・・。

アニメ「ぼくらの」
(原作は小説)

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